阪急電車で、おっちゃん「あいてるかのぉ」 話しかけられたカップルは? By - grape編集部 公開:2017-12-30 更新:2018-07-25 grapeアワードgrapeアワード授賞作品いい話ニッポン放送京都阪急電鉄 Share Tweet LINE 『京都まで』 京都へ向かう阪急電車だった 通路を挟んだ隣は四人がけのボックス席で そこに少しやんちゃな風体のおにいちゃんと せいいっぱい化粧をしたおねえちゃんがいた 土曜日の昼さがり 午後の日ざしが柔らかな秋のことだった しばらくすると 角刈りの六十年輩の男が乗ってきて あいてるかのぉ とふたり声をかける ちょっと強面のおにいちゃんも ちょっとケバいおねえちゃんも なんだか恐縮して どうぞどうぞ という 年輩のおじさんは腰をおろすと いかにも人懐っこい口調で おふたりはどこまでかな 京都かいな と声をかけた おにいちゃんはおずおずとうなずく おねえちゃんは笑顔 ほうそうかいね 大阪からかね ああぼくは大阪からで おねえちゃんもか いえ わたしは宮崎 宮崎市内 おお宮崎か おじさんも生まれは九州とよ 年輩の男はさらにつづけて で おふたりはどこで知りあったのかと聞く あっ高校のときの同級生です ぼくは卒業してから大阪に働きにでて とおにいちゃん どうやら伊丹空港に着いたばかりの彼女を おにいちゃんが迎えにいって その足で京都まで一泊旅行にいく予定らしい ところがおにいちゃんはきのうの夜 勤め先の先輩と遊んで朝帰り おかげで約束の時間に寝過ごしてしまい 彼女はしばらく空港で待ちぼうけ でも怒ってないんだよね それからしばらく身の上話 おにいちゃんは大阪で板前修業 おねえちゃんは宮崎で水商売 若いふたりは迷惑そうなそぶりもなく 問われるままにこたえていく いまの世にこういう風景があるんだなぁ おじさんの角刈り頭は もうかなり白髪になっている どっしりした体格で貫禄じゅうぶんだ だけどなんともいえないいい笑顔なんだな おにいちゃんよか帽子やね ちょっとみしぇせてくれんね おにいちゃんがかぶっているのは野球帽 帽子をとると丸刈りに近い 高校球児のような頭があらわれる よか髪型やねぇ もしかすると野球部やったんか はい 高校のときに よかねぇ そん姿にひかれたんか おねえちゃんは笑顔のまま ちょっと恥ずかしそうにうなずく 京都はどこしゃいくんかね まだどこにいくかは決めてなくて そやったらおじさんがプランを立てちゃろう そういうとポケットから紙切れをとりだして ま 清水さんにはいんならんな それとも嵐山か 両方は無理かもしれんねぇ 若く見えたけれど年はふたりとも二十五 それを聞いておじさんは驚く こげんあいらしか彼女ばほうっとくと そのうちどっかにいってしまう はよ結婚しぇなな そや おにいちゃんここでいいんしゃい 結婚しよっていいんしゃい えっここで おにいちゃんはいきなりの提案にどぎまぎ どげんね 九州男児ははっきりせなつまらん ああっあの どげんね しばらく沈黙 おねえちゃんはおにいちゃんのことを 横目で見ている おにいちゃんはやがておねえちゃんを見て あの結婚してください と口にしたのです するとおねえちゃんはうれしそうに はい ちょっとハスキーボイスでこたえたのでした 阪急電車は桂川を越えたところ もうすぐ左手に西京極球場が見えてくる ガタンゴトンと人生が走る まもなく京都だ grapeアワード優秀賞受賞 『京都まで』 PN:佐々 林(ささ りん) 『心に響く』エッセイコンテスト『grapeアワード』 grapeは2017年、エッセイを募集するコンテスト『grapeアワード』を開催しました。 応募作品は246本。その中から最優秀賞・1作品、優秀賞・6作品が選ばれました。その他の授賞作品は、下記ページよりご覧いただけます。 grapeアワード授賞作品一覧 出典grape/grapeアワード Share Tweet LINE
『京都まで』
京都へ向かう阪急電車だった
通路を挟んだ隣は四人がけのボックス席で
そこに少しやんちゃな風体のおにいちゃんと
せいいっぱい化粧をしたおねえちゃんがいた
土曜日の昼さがり
午後の日ざしが柔らかな秋のことだった
しばらくすると
角刈りの六十年輩の男が乗ってきて
あいてるかのぉ とふたり声をかける
ちょっと強面のおにいちゃんも
ちょっとケバいおねえちゃんも
なんだか恐縮して どうぞどうぞ という
年輩のおじさんは腰をおろすと
いかにも人懐っこい口調で
おふたりはどこまでかな 京都かいな
と声をかけた
おにいちゃんはおずおずとうなずく
おねえちゃんは笑顔
ほうそうかいね 大阪からかね
ああぼくは大阪からで
おねえちゃんもか
いえ わたしは宮崎 宮崎市内
おお宮崎か おじさんも生まれは九州とよ
年輩の男はさらにつづけて
で おふたりはどこで知りあったのかと聞く
あっ高校のときの同級生です
ぼくは卒業してから大阪に働きにでて
とおにいちゃん
どうやら伊丹空港に着いたばかりの彼女を
おにいちゃんが迎えにいって
その足で京都まで一泊旅行にいく予定らしい
ところがおにいちゃんはきのうの夜
勤め先の先輩と遊んで朝帰り
おかげで約束の時間に寝過ごしてしまい
彼女はしばらく空港で待ちぼうけ
でも怒ってないんだよね
それからしばらく身の上話
おにいちゃんは大阪で板前修業
おねえちゃんは宮崎で水商売
若いふたりは迷惑そうなそぶりもなく
問われるままにこたえていく
いまの世にこういう風景があるんだなぁ
おじさんの角刈り頭は
もうかなり白髪になっている
どっしりした体格で貫禄じゅうぶんだ
だけどなんともいえないいい笑顔なんだな
おにいちゃんよか帽子やね
ちょっとみしぇせてくれんね
おにいちゃんがかぶっているのは野球帽
帽子をとると丸刈りに近い
高校球児のような頭があらわれる
よか髪型やねぇ
もしかすると野球部やったんか
はい 高校のときに
よかねぇ そん姿にひかれたんか
おねえちゃんは笑顔のまま
ちょっと恥ずかしそうにうなずく
京都はどこしゃいくんかね
まだどこにいくかは決めてなくて
そやったらおじさんがプランを立てちゃろう
そういうとポケットから紙切れをとりだして
ま 清水さんにはいんならんな
それとも嵐山か 両方は無理かもしれんねぇ
若く見えたけれど年はふたりとも二十五
それを聞いておじさんは驚く
こげんあいらしか彼女ばほうっとくと
そのうちどっかにいってしまう
はよ結婚しぇなな
そや おにいちゃんここでいいんしゃい
結婚しよっていいんしゃい
えっここで
おにいちゃんはいきなりの提案にどぎまぎ
どげんね 九州男児ははっきりせなつまらん
ああっあの
どげんね
しばらく沈黙
おねえちゃんはおにいちゃんのことを
横目で見ている
おにいちゃんはやがておねえちゃんを見て
あの結婚してください
と口にしたのです
するとおねえちゃんはうれしそうに
はい
ちょっとハスキーボイスでこたえたのでした
阪急電車は桂川を越えたところ
もうすぐ左手に西京極球場が見えてくる
ガタンゴトンと人生が走る
まもなく京都だ
grapeアワード優秀賞受賞
『京都まで』 PN:佐々 林(ささ りん)
『心に響く』エッセイコンテスト『grapeアワード』
grapeは2017年、エッセイを募集するコンテスト『grapeアワード』を開催しました。
応募作品は246本。その中から最優秀賞・1作品、優秀賞・6作品が選ばれました。その他の授賞作品は、下記ページよりご覧いただけます。
grapeアワード授賞作品一覧