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大好きなひいおじちゃんが、いない ひ孫の口から出た言葉 母は泣いた

By - grape編集部  作成:  更新:

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『ちょっこし』

2017年8月。祖父の初盆を迎え、私は実家に帰省した。お供は2歳になる娘、ちい。最近おしゃべりが上手になって、自分の気持ちも上手に伝えられるようになってきている。

「じっじ、どっかなぁ!ちいち来たよー!」

ちいは仏壇に手を合わせ終わると、すぐ部屋中の扉を開けて走りはじめた。大好きなじいじに会えると思っているようだ。

ちいは人見知りが強かったが、何故か祖父にだけは、生後すぐの初対面から懐いていた。自ら抱っこされに行くだけでなく、抱かれるとほっぺをキュッと寄せて、安心しきった表情で眠った。生後半年が過ぎ、動きの幅が広がってくると、祖父の近くでコロコロと遊び、声を出して笑っていた。言葉が出だすと、すぐに「じっじ」と呼びかけるようになり、「あっけって(抱っこして)」とニコニコ。10キロ近かったちいを、筋力の弱ってきた祖父は何度も笑顔で抱き上げた。

「じいじ疲れちゃうから、次はばぁばにおいで」

周りが気を使ってもお構いなし。祖父も、可愛い初ひ孫のお願いに、こいこいと両手を広げた。

「ちょっこしだけやぞ。ちょっこし」

家族中で祖父だけが使う"少しだけ"という意味の方言を、呪文のように繰り返しながら、祖父はいつも嬉しそうだった。

名古屋と岐阜。近いとはいえ離れて暮らしているため、1度帰ってしまうとしばらく会えない。それが分かっているのか、別れ際はいつもご機嫌ナナメで、「じっじ、じっじ」と泣き続けていた。そんなちいをなだめるように、祖父は必ず、車内で食べるようにとお菓子をくれた。

「ちょっこしやけどな」

いたずらっ子のように笑って、祖父はちいにこっそり手渡す。ちいも笑って、チャイルドシートに隠し、2人だけの秘密を楽しんでいるように見えた。

最期に会えた日も、祖父は言っていた。

「ちょっこしや、ちょっこし。またすぐ会えるでな」

亡くなる1週間前。呼吸が苦しくなり、入院した日だった。

「じっじ、なーい」

膨れた顔で、ちいが近づいて来る。どの扉を開けても、じいじが居ないので、つまらないと報告に来たのだ。

「じいじはお空だよ。みんなせっかく来てくれたから、お茶とお菓子、どうぞしよう」

お手伝いを頼むと、ちいは快く引き受けてくれた。お菓子の入ったお盆を手に、ドタドタドタドタ。人見知りは、もうほとんどない。初めて会う人達の輪の中に走っていくと、そのまま手を差し出した。

「ちょっこしー。どーじょ」

えっ、とみんながちいを見た。

「ちょっちょ。ちょっとーし!」

祖父の口癖を歌のように口ずさみながら、ちいはお菓子を配っていく。

「あれぇ懐かしい」
「じいちゃん、よう言いよったもんな」

お菓子と一緒にニコニコと温かさが広がって行く。ちいは、輪の真ん中にお盆を置くと、両手に1つずつお菓子を持って帰って来た。そして、右手のラムネを自分のリュックにしまうと、左手の飴をじいじの写真のうしろへコロン。

「ちょっこしやってねー。ふふふふっ」

じいじと過ごした13か月。会えたのはその内ほんの数ヶ月だけ。それでもしっかり、ちいの中にはじいじが居る。嬉しく思っていると、不意に小さな手が現れた。

「かかもどーじょ」

貰ったラムネを頬張って、今一度祖父の写真に目をやった。飴を背に隠して、祖父はにっこりと笑っている。甘酸っぱさが一気に広がって、私は少しだけ泣いた。

grapeアワード最優秀賞受賞『ちょっこし』
PN:とまと

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出典
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