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東北を走る小さな黄色い車 移動図書館『みず文庫』は子どもそして大人を繋ぐ架け橋に

By - felissimo  公開:  更新:

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株式会社フェリシモが発足した、女性による東北の産業復興を支援する「とうほくIPPO(いっぽ)プロジェクト」。
責任者が東北在住の女性であることを条件に、事業活動提案を公募し、選ばれた個人や団体に支援金を支給。被災地の産業復興のきっかけづくりにつなげることを目的としています。
今回は、第3期の支援先である「みず文庫」江藤みかさんに、お話をうかがいました。

2017年秋、取材に訪れた日はあいにくの小雨。駅舎の前に立っていたスタッフの前に1台の黄色い車が止まりました。

「こんにちは。はじめまして」と爽やかにあらわれたのは、家具職人の矢板(やいた)さん。移動図書館・みず文庫がスタートするきっかけとなった、車の持ち主です。

福島県・天栄村は、「米食味分析鑑定コンクール国際大会」で最高賞の金賞を 9 年連続で受賞している日本唯一のお米「天栄米」の産地です。

みず文庫代表の江藤みかさんは、2008年に茨城から「緑のふるさと協力隊」の隊員として福島県天栄村に派遣され、終了後そのまま移住し、地域コーディネーターとして天栄村の交流事業や天栄米の普及活動に携わってきました。

東日本大震災をこの地で経験したみかさんは、震災以降、放射性物質の影響を食い止め、安全性と食味を維持して世界一の天栄米を継続させることに取り組んでおられます。また、地元の子どもたちとともに美しい自然に囲まれたふるさとを次の世代に残す活動に取り組むなかから、地元の人たちがつながれる場やコミュニティスペースの必要性を実感するようになりました。

家具職人の矢板さんと代表の江藤みかさん

「みず文庫」を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

もともと主人が子どもの本に関わる仕事に携わっていて、その縁で、震災後に相馬市を拠点に活動されていた「NPO 法人 3.11 こども文庫"にじ"」さんから絵本を 600 冊譲り受けることになったんです。それらの絵本を使って地域のお子さんたちに読み聞かせやワークショップをしたいと考えていました。

夫婦ともに好きな車が、ルノー社の黄色い鼻ペチャのカングーで、街中でみかけては台数を数えてました。そんな中、用事で訪れた木工所の前に、その黄色のカングーが停まっているのを見かけて、こんなところにこの車があるなんて、とびっくりしました。すぐに聞いてみたところ、車の持ち主が矢板さんだったんです(笑)。

その時に、あちこちを巡回する移動図書館が頭に浮かんだんです。

絵本をいっぱい積んだカングーに、子どもたちが集まる姿!その場で矢板さんに移動図書館の夢のお話をして、やったらおもしろそうだよねとお話ししたところ、意外にも「いいですね。やりましょう!」と即答していただきました。木工職人の腕を生かして、車の中に置く本棚も製作してくれたんですよ。こうしてみかさんと矢板さんとご主人による移動図書館「みず文庫」が動き出したのです。

手づくりマルシェなどのイベントでの出店活動を重ね、2013 年、とうほく IPPO プロジェクトの支援を受けることになり、2014年春から、ついに自前の「みず文庫号」を手に入れ、本格的に活動をスタートすることになったのです。

みず文庫号。中の棚や腰掛け部分は矢板さんの手づくり。

本格的に活動をスタートしてから、何か課題はありましたか。

事業性ですね(きっぱり)。

移動本屋と移動図書館の違いですね。本屋だったら本を買っていただいて売り上げを出せるけれど、図書館は本では稼げない。本を借りるのは無料ですもんね。じゃあどうやって食べていくんだ、という根本的な課題について、ずっと悩んで模索してきたんです。

あるときNUMABOOKSさんの講演を聴きに行って、「移動図書館をしてるんですけど...」って質問してみたところ、「え?移動図書館!?」ってきょとんとされて。事業として考えたら、やっぱりみなさん本屋をすすめられますね。

でも、「自分たちの役割はこっち(移動図書館)だ」っていう確信みたいなものがあって。いろんなチャンレンジをしてきて、今年(2017年)に入ってからようやく見えてきたような気がしています。やっていけそう、という自信が少しついてきました(笑)。

お子さんからのお手紙が入るポスト。随所にこだわりが詰め込まれています。

この思いに至るまでには、今年(2017年)の春まで続けた地域コーディネーターとしての経験も大きい、と話すみかさん。

今後の「みず文庫」の方向性と取り組みを聞かせてください。

熊本県の水俣が環境都市として復活したように、福島も震災をきっかけに自然や環境を守りながらずっと発展していけたらいいなと願っています。それで、「みず文庫」では、絵本の読み聞かせと、天栄米をはじめとする地元の農産物による食育とを組み合わせた取り組みを始めています。

地域コーディネーターとしてお手伝いをしてきた天栄米は、研究会の方たちが一所懸命取り組まれてきた、震災が起きるまで国際コンクールで連続で金賞を受賞してきた、すばらしいお米です。それなのに、放射性物質の問題があり、振り出しに戻ってしまいました。地域の子どもたちと一緒にふるさとを残す活動に取り組み、あらためて安全性と食味を追求して復活した天栄米は、震災後も途絶えることなく金賞を連続受賞するようになりました。これまでにのべ500名もの人たちが応援をしてくれたことは、ほんとうにうれしかったです。

そして今年(2017年)の春、そろそろ「震災復興」から、「世界一のブランド米」として育っていくステージへと移行する時期だと感じて、私も復興支援の地域コーディネーターを卒業することにしました。これからは、地元の農家さん一人ひとりの思いや、農作物の生産を通して紡ぎだされるストーリーを大切に応援していこうと思っています。

こころんで作られるクッキー

天栄米を土鍋で炊くとさらに美味しさアップ。

絵本と食育のコラボでは、お米の美味しさを実際に味わってもらおうと、マルシェで土鍋で炊いたご飯でおにぎりを握るイベントなどを開催しています。さらに、無農薬・化学肥料不使用、自然栽培などの野菜や紅茶などの加工品を販売している「直売・カフェ こころや」で扱っている商品も一緒に紹介しています。

ここで働く障がい者さんが地域で自立して自分らしく暮らしていけるように、絵本と食育で子どもたちや地域の人みんなが元気になっていったらいいなと思っています。そして矢板さんに協力してもらって、食育からの広がりで木の食器のぬくもりを感じてもらえるワークショップも行う予定です。できれば国産の木材をもっと使って。お値段の問題はありますけど(笑)。

みず文庫の将来像を笑顔で語るみかさんの瞳は、きらきらと輝いています。

これから先、「みず文庫」が絵本の読み聞かせを軸にして、地元の人たちの思いがつながりあうハブのような場として発展していきそうと期待がふくらみます。

【2017年取材】

出典
とうほくIPPOプロジェクトレポート -みず文庫(江藤みかさん)-

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