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甲子園出場が決まったが… 残酷すぎる、正捕手の選抜テスト

By - grape編集部  作成:  更新:

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『あの日、ひときわ高い夏空の下で』

その友は、高校野球の名門校に迷わず進学した。甲子園出場の常連校であり、野球小僧であれば誰もが憧れる高校である。

友にとって3年生最後の夏も、出場を射止めた。そしてその夏は、友だけでなく私にとっても忘れ難い、ある出来事が残った。

友のポジションは捕手だった。甲子園決定の喜びも束の間、彼を待っていたのは『正捕手争い』という試練だった。

甲子園のハレ舞台に立つ正捕手は、3人の候補の中から1人だけ。選ばれなければ、ベンチ入りはおろか、スタンドでの応援となる。

「明日がその日なんだ」

友は、照れるような顔で云った。

翌日、私はグラウンドの片隅で選抜テストの開始を待っていた。

この日、監督がとった選抜方法は、二塁への送球テストだった。走者の進塁を阻む捕手の務めは、送球の速さとその正確さによって初めて果されるその技能が試されるのだ。

チームメイトが固唾を飲んで見守る中、試技が始まった。

「1人3球!」

大声で告げる監督の声が響き渡る。灼熱の太陽が照りつけるグラウンド。私は祈るような気持ちで友の姿を追った。

友は2番目の試技だった。ピッチャーの投球を捕球するが早いか、ボールを掴んだ拳を右肩から素早い動作で送球する。

見事だ。

ほれぼれとする矢のようなボールは、二塁手の捕球姿勢を多少とも脅かすことなく、真っ直ぐに向かった。

「ナイススローイン!」

突き刺さるようなボールに、チームメイトから称賛の声が上がった。3選手共に、3投すべての寸分たがわぬ正確な白球が、この日グラウンドを走った。

正捕手が決まった。

友ではなかった。

恐る恐る、その決め手を尋ねてみた。そしてその選考理由に私は度肝を抜かれた。

決め手は二投目だったという。二塁手が構えたグラブからボール三つ分、右にそれた送球をした選手がいた。

友だった。

部員100名からなる名門野球部の、この非情さに私は震えた。

「わずかボール3個分で実力を判定されるなんて残酷過ぎるよな」

私は慰めるよりほかはなかった。そんな私に、友はまるで神のような言葉を放った。

「ボール3つ分外すか外さないかは実力ではない。それは運なんだ」

負け惜しみ…?

一瞬そう思った私に、友は遠くを見つめながら続けた。

「選抜テストの、今日のこの日の、この時間に、失敗するかしないかは、運なんだ。3人の中で運を一番持っているのは誰か…。監督はここで選んだんだ。甲子園で求められる実力というのは、そういうことなんだ。」

私は、青い空を仰いだ。

技能差ではなく、『運』。目に見えないもので実力を測る視点…。

そこに心底納得している友がいる。それだけではない。友はこの夏、最高に気高い言葉を残した。

「運を一番持っているあいつに、俺はこのチームを託す」

そこにはライバルを超えた『チームメイト』がいた。

あの日、ひときわ青く高い夏空の下で、晴れやかな顔で語った友の顔を私は忘れられない。

grapeアワード優秀賞受賞
『あの日、ひときわ高い夏空の下で』
PN:心に灯をともすおいどん

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出典
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